ISBN978-4-88471-092-7 著者:野田将晴(勇志国際高校校長) 定価:本体1300円+税 46判 ソフトカバー 252ページ
不登校を抱える親御さん、そして何より現場の教師に読んでもらいたい。 教師が変われば生徒が変わる。 現場で対応の難しい体罰の対策についても具体的に紹介しています。
叫べど進まぬ教育改革 天草の離島で「国を愛し、郷土を愛し、人を愛する」 を校訓に掲げる高校がある。 若い教師達は、当校の教育方針 1 親孝行する青少年たれ 2 志ある人間たれ 3 誇りある日本人たれ 4 役に立つ国民たれ 5 尊敬される国際人たれ を目指し教育にあたる。 不登校、引きこもり、教師不信、無気力…… 生徒達は、心のバリアーを打ち破り見事に立ち直る。
その学校とは熊本県天草市御所浦町牧島にある学校法人青叡舎学院 広域通信制高等学校 勇志国際高等学校です。
本文より
不登校の生徒が立ち直って活動しているという番組を作りたいと、NHK熊本支局から学校に申し入れがあった。 私は迷わず、三年生になっていた黒木太一君を紹介することにした。 私は黒木太一の自宅に伺った。 お母さんとおばあさんは、本人さえ良ければということだったので、太一と話した。 「校長先生、昔の僕と同じように苦しんでいる人がまだ沢山いらっしゃると思います。そういう人たちに今の自分を見てもらうことでお役に立てるのなら、喜んで取材を受けます」と言うのだった。 今や彼は22歳の立派な社会人となって、家計を支えながら弟たちの面倒を見ている。
終 章 一通の手紙
この原稿を書き終えようとする頃、当校の七回目の卒業式(平成二十四年三月一日)があった。 開校以来の卒業生の総数が一二八九名(平成二十四年三月)となった。 当校は広域の通信制高校であるから、北は北海道から南は沖縄にいたる全国各地に在籍者がいる。したがって卒業式や入学式などは、近隣の生徒が出席し、遠隔地の生徒は、近くに学習センターがあればそこで参加するし、なければネットで参加するしかない。 今年の八十四名は、今までで最も多かった。 参列してくださった来賓の皆さん方からは、感動的な素晴らしい卒業式であったと嬉しい評価をいただいた。 私は、卒業証書を授与しながら、卒業生一人ひとりが入学してきた時の状況を思い出し、見違えるほどたくましく立派になったその顔に、万感の思いがこみ上げてくるのを禁じえなかった。 式が終了したあと、卒業生の高尾君兄弟のお父さんが、 「あとで読んでください」 と言って、一通の手紙を渡された。その一部を紹介する。
厳しかった冬の寒さもようやく遠ざかり、いよいよ春も近いと思える気候になってまいりました。 この度は、貴校にお世話になっておりました私どもの二人の息子がついに卒業の日を迎える事ができました。 これも、校長先生はじめ、諸先生方の温かいご指導によるものと心より感謝いたしております。 思えば、二人の息子たちが立て続けに不登校となり、勉強はおろか、机の前に座る事さえできなくなり、二次障害として欝(うつ)にさえなってしまった時には、どこにも希望の光も見えず、暗澹(あんたん)とした日々の中に、私たち親までもが鬱屈(うっくつ)した精神状態になって本当に苦しい思いをいたしました。 その後、当地の不登校児をもつ親の会に参加させていただき、多くの癒しと学びをえることができ、私たちは徐々に気持ちを落ち着かせる事ができました。 ただ、どうしても学校に行くことができない、何とか高校に入学しても、教室に行くことができない子供たちをどのようにして立ち直りの道に導けばよいのか悩んでおりました。 そのような時に、その親の会の、ある参加者の子供さんが貴校で学び、卒業されたことを知り、一縷の望みを抱いて子供達を貴校へ転校させたのです。 当初、二年の後期に貴校に入学した兄は、ネット授業でさえなかなかまともに受けることができず、結局二度目の二年生となりましたが、その後入校した弟と共に何とかレポートを遅れながらも出す事ができるようになりました。 不安そうな顔で初めてのスクーリングに向かう船に乗り込むふたりを見送った際は、ちゃんと最後までスクーリングを受けることができるのだろうか? 途中で帰ってくるのではないだろうかと気をもんでおりましたが、そのような心配は杞憂に終わり、帰りの船から降り立った彼らの表情は、それまでに見たことも無いほどに精悍で、生き生きとしておりました。 その顔を見たとき、やはり貴校を頼ったのは間違いではなかったと確信いたしました。 三年になってからも、なかなか親が期待するようにはいかないものの、子供達の精神状態も随分と回復してまいりました。 ――中略 そして貴校に入学した時には、考える事もできなかったことですが、卒業後は二人で東京の専門学校にいくことになりました。 このように子供達の立ち直りにおいて貴校が果たした役割はとても大きなものでした。貴校の存在を知らなければ子供達の今は果たしてあったでしょうか? くり返し何度感謝しても足りません。 ――後略
この兄弟の進路が決定するまでには、担任を中心とする進路指導担当の先生たちの、熱心な指導があったことは言うまでもない。 この手紙を職員に回覧して、改めて終礼で次のように話した。
「我々がお預かりしている生徒一人ひとりは、皆この手紙にあるような深刻な悩みを持った家族がいるのです。そして立ち直っていく生徒たちのバックには、このような家族の悦びがあるのです。改めて心を引き締めて業務に当たっていきましょう」
卒業式は終わったが、今年度内のスクーリングが三月末までにあと三回ある。 来週月曜日から五十九名の生徒たちが各地からやってくる。 通信制のよさは一杯ある。 しかし一つだけ我々教職員にとって物足らないところがある。 それは生徒たちと会えるのが、基本的にスクーリングのときだけということだ。 だから、我々はいつも首を長くしてその日を待っている。 初めて会う生徒、約一年ぶりに会う生徒、様々な悩みを抱えてやってくる。 そして、四泊五日の日程を終えて帰路につくときには、来たときとはまったく違う明るく自信に満ちた輝いた顔をして、海上タクシーに乗る。 生徒たち一人ひとりが帰る先には、高尾君兄弟のご両親と同じように、子供達の変り様に驚き喜ばれる家族の顔が待っているのだ。
平成二十四年三月二日 記
目 次 第一章 教育者は、聖職者である。 第二章 教育者は、自らを鍛錬し、生徒に対しては長所を伸ばす指導法を基本とする。 第三章 教育者は、自己責任を行動原理とする。 第四章 教育者は、学校の健全な発展に努める。 第五章 教育者は、教育は国家百年の大計であると心得る。 第六章 教育者は、生徒の教育を本位として行動する。 第七章 教育者は、教育を通して利他の精神に基づく文化を創造する。 第八章 教育者は、国を愛し郷土を愛し人を愛する。 第九章 教育者は、正しい歴史観と国家観が教育の基本と認識する。 第十章 教育者は、問題行動等に対しては、毅然とした態度で適切な指導を行う。 終 章 一通の手紙
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